アイゼンハワーの原子力平和利用演説

1 year ago
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西暦1,953年12月8日
第34代アメリカ大統領ドワイト・D・アイゼンハワーが原子力の平和利用について、以下の主旨の演説を第8回国連総会で行う。
ヴィジャヤ・ラクシュミー・パンディット議長及び国連総会成員の皆様
第2代スウェーデン事務総長ダグ・ハマーショルドから、バミューダ諸島(イギリス)にいた私に、今回の総会で演説してほしいという招待が届いた時、私は丁度以下の人間と西暦1,953年12月4〜8日の日程でバミューダ会談を始める矢先であった。
①第63代イギリス首相ウィンストン・チャーチル
②第59代イギリス外相アンソニー・イーデン
③第141代フランス首相ジョゼフ・ラニエル
④第191代フランス外相ジョルジュ・ビドー
会議の議題は、世界が抱える幾つかの問題に関するものだった。 その後バミューダ会談の期間中、私の胸中には常に大きな名誉が私を待っているという思いがあった。そして、本日この場所に立って、国連総会で演説をするという名誉を与えられ、それが現実のものとなったのである。私は、皆さんの前で演説するという栄誉に感謝すると同時に、この総会を目の当たりにして、高揚感を味わっている。 一つの組織の下で、これほど多くの人々の、これほど大きな希望が一堂に集まったことは、歴史上無かった。そして、ここ数年の重苦しい時期にあって、皆さんがここで成された討論や決定は、すでにそうした希望の一部を実現している。 しかしながら、行く先にはまだ大きな試練と大いなる成果が待ち受けている。私は、こうした成果が実現するとの確かな期待の中で、現在自らが有している職責をもって、アメリカ政府がこれまでどおりこの機関を確固たる立場で支えていくことを断言する。そして、我が国がこうした支援を行う背景には、この世界に於ける全ての国々の恒久的平和並びに全ての人類の幸福と健康を実現する知恵・勇気・忠誠を、各国が十分に提供し合うとの信念がある。私がこの場を、バミューダ会談に関する米国の一方的な報告を行う機会とする事が相応しくないのは明白である。しかしながら、あえて言及するならば、あの美しい島で行われた討議において、我々出席者が、国連憲章で明確に示されているのと同じ、世界平和と人類の尊厳という偉大な概念の実現への道を追求していたことを断言する。他方、いかに希望に満ちて聞こえようとも、偽善的な決まり文句をただ唱えることも、この素晴らしい機会に求められていることではない。そこで私はこの場を、過去何カ月もの間、立法府及び行政府に於ける私の同僚の、そして私自身の脳裏や胸中にあった幾つかの事を皆さんに伝える場にしようと決意した。これらの事は、当初はアメリカ国民に対してだけ話そうと予定していた考えだった。私は、世界に危機が存在するとすれば、それは、全ての国々・人々に対しても同じように危機であり、同様にある1 つの国の胸のうちに望みが存在するとすれば、それを世界中の国々が共有すべきである、との深い信念を持っており、これはアメリカ国民の信念でもあると理解している。そして、例え極めて小さな方策であっても、今日の世界の緊張状態を緩和することを目的とした提案を行うとすれば、国連総会程それを披露するに相応しい聴衆はあるまいと思われる。私は本日の演説を行うに当たり、私にとってはある意味では新しい言葉、軍人として人生の大半を送ってきた私が、できることなら決して使いたくはなかった言葉で、あえて話す必要があると感じている。 その新しい言葉とは、核戦争に関する用語である。核の時代は、非常に速いペースで進行しており、世界中の人々は、極めて重要なこの分野の進展における現在の局面を、少なくとも相対的に、ある程度理解している必要がある。従って、もし世界の人々が平和を求めて知的な探求を行おうとするならば、現状における重要な事実を認識していなければならないことは明らかである。核の危機や原子力に関して私が述べることは、必然的にアメリカの観点からの話となる。それが私の知る唯一の明確な事実だからである。しかしこの問題は、その性格上、単に一国の問題ではなく、世界的な議論を要する問題である事は、私がこの総会の場で訴えるまでもない。西暦1,945年7月16日アメリカは世界最初の核爆発実験を行った。それ以降、米国は42回の核爆発実験を実施している。さらにこの機密は、ソ連の知るところでもある。 現在の核爆弾は、核時代の幕開けをもたらした兵器の25倍以上の威力を持ち、また水素爆弾は、TNT火薬で数百万トン相当の爆発力にまで達している。現在のアメリカの核兵器備蓄は、言うまでもなく日々増加しているが、現時点で、第2次世界大戦の期間中の全ての戦域において、凡ゆる爆撃機及び銃から発射された全ての爆弾と砲撃を合わせた爆発力の数倍を超えている。艦上あるいは陸上基地発進の何れに於いても、今や、単一の航空群が、第2次世界大戦の全期間を通じて英国に投下されたすべての爆弾の爆発力を超える破壊兵器を、到達可能ないかなる標的に対しても運搬できる状態となっている。核兵器は言うまでもなく、規模と種類においても、目覚ましい進歩を遂げてきた。核兵器の進歩たるや凄まじいものがあり、我が国の軍隊に於いて、事実上通常兵器の地位にさえ登りつめた。アメリカでは、 陸・海・空軍と海兵隊の全てが核兵器を軍事利用できる能力を有している。しかし、原子力の恐怖に満ちた機密と恐ろしい機動力は、我々だけのものではないのである。この機密は、我が国の友好国であり同盟国であるイギリスとカナダが保有している。両国の天才的な科学者たちは、我が国の最初の発見、そして核爆弾の設計の際に多大な貢献をしている。さらにこの機密は、ソ連の知るところでもある。ソ連はこの数年間、核兵器に莫大な資源を投下している旨を、わが国に伝えている。この期間ソ連は、少なくとも1 回の熱核反応実験を含む、一連の核爆弾の爆発実験を行っている。米国が一旦は、核を独占していたとしても、それはすでに数年前にはそうでなくなっている。従って、我が国がこの分野で他よりも早いスタートを切ることによって、いわば大幅な数量的有位性を兀々蓄積してきたとはいえ、今日の核の現実を見ると、さらに重要な意味を持つ2つの事実が存在している。
①現在幾つかの国家によって所有されている知識は、最終的に他の国々、恐らくは全ての国々に共有されると考えられる。
②兵器の数という点で極めて優勢であり、また、その結果として圧倒的な報復能力を有していたとしても、それ自体では、奇襲攻撃による大規模な物質的被害や人命の犠牲に対する予防策にはならない。
自由世界は、少なくともこうした事実を漠然と認識しており、当然のことながら、警戒態勢や防衛システムの大規模な計画に乗り出している。こうした計画は、今後さらに加速され、拡大されると思われる。しかしながら、兵器や防衛システムに対する莫大な出費が、如何なる国家に於いても都市や国民の絶対的安全を保証できると考えてはならない。核爆弾の恐ろしい算術は、そうした簡単な解答を許してくれない。最大限の能力を持つ防衛に対してでさえ、奇襲攻撃に効果を上げる最小限の核爆弾を所有する侵略者であれば、恐らく、限定された攻撃対象に対し十分な数の爆弾を投下し、決定的な損害をもたらすことが出来る。万一そうした核攻撃が米国に対して行われた場合、我が国は迅速かつ断固として対応する。しかしながら「アメリカの防衛能力は侵略者に対し多大な損害を加え得るものである」或いは「アメリカの報復能力は侵略者の国土が荒廃するほど大きなものである」と私が言ったとしても、それは全て事実ではあるものの、 アメリカの目的と希望を真に表現してはいない。 そこで躊躇ってしまうと、2つの核の巨人が、震える世界を舞台に悪意をこめて永久に睨み合う運命に陥ったという考えの絶望的な終末を認める事になる。そこで足を止めてしまうと、文明の破壊、世代から世代へと受け継がれてきた他に代えがたい人類の遺産の消滅の可能性と、人類が野蛮な状態から秩序を得て、公正、そして正義へと進歩する古来の苦闘の道筋を再び最初から繰り返せという宣告を、為す術も無く受け入れることになる。そうした絶望的な状態の中では、どんなに分別ある人間でも、勝利を見出すことが出来る筈が無い。 こうした人類の荒廃や破壊と自らの名が、歴史の中で結び付けられる事を望む者があるだろうか。歴史の何ページかには、確かに「偉大な破壊者」の顔が時折記録されてはいる。但し、歴史書全体を見れば、そこには人類の果てしない平和の希求と、人類が神から与えられた創造の能力が示されている。アメリカがアメリカとしての存在を示したいのは、個々の歴史のページではなく、歴史という1冊の本全体に於いてである。我が国は、破壊的ではなく、建設的でありたいと望んでいる。国家間の戦争ではなく、合意 を欲している。他の全ての国の人々が自分たちの生活様式を選ぶ事の出来る権利を等しく享受しているとの確信を持って、アメリカは自らも自由であることを欲している。従って、我が国の目標は、我々が恐怖の暗闇から光に向かって進むことを助け、如何なる場所に於いても人類の心・希望・魂が平和や幸福や健康を手にすべく前進できる道を見つけ出すことである。そうした追求に於いては、忍耐を欠いてはならないということを、私は理解している。現在我々が経験している様な分断された世界に於いては、ただ1 つの劇的な行為によって救済が齎される訳では無い事を私は理解している。いつの日か、世界が自らを見つめ、この世界の他の国々で、相互に平和を確信できる新しい環境が芽生えている事を実感出来る迄、長い期間を掛けて、多くの段階を踏んでいかなければならない、また、こうした行動を起こすのは今である事を、私は理解している。アメリカとその同盟国であるイギリス・フランスは、過去数カ月にわたり、こうした行動に踏み出していくための努力を行っている。我々が、話し合いの場を回避している、等とは誰にも言わせない。我が国を含む3カ国が、分割されたドイツの問題についてソ連との交渉を長い間求めている事、また、朝鮮問題についての交渉を長い間求めている事は周知の事実である。極最近になって、我々の元にソ連から、事実上4大国会議を開催したいという意思が伝えられた。我々3カ国は、ソ連からのこの覚書の内容に、これまで示されてきた受け入れがたい条件が記されていない事を歓迎した。我々が発表したバミューダ共同宣言からも既に明らかな様に、3カ国は、 早急にソ連と会合を開くことで合意に達している。アメリカ政府はこの会合に対して、期待を込め、真摯に取り組んでいる。我々は、この会合で目に見える成果を得ることによって、平和への一歩を踏み出すという、ただ1つの目標に向かってあらゆる努力を傾ける所存である。これこそが国際緊張の緩和に向けた唯一の確実な道なのである。我々はこれまでもそうだったが、今後も、ソ連が正当に所有するものを放棄する様同国に求める事は無いし、ロシアの人々が我が国の敵であり、ロシアと友好的かつ有益な関係を持って付き合うことを一切望まない、とは決して言わない。寧ろ我々は、来るべき4大国会議がソ連との関係構築の第1歩となり、東西の国民の間の自由な相互対話を将来的に齎すものとなる事を望んでいる。こうした対話こそが、平和的な信頼関係を築く為に必要な理解を進める唯一の確実な手段なのである。 東ドイツ、占領下にあるオーストリア、および東欧諸国に現在くすぶっている不満に代え、我々は、 いかなる国家も他の国家に対して脅威とならず、とりわけロシアの人々に対して脅威となる事のない、 欧州自由諸国間の友好的な関係を求めている。 また、アジアでの混乱・紛争・窮状を乗り越えれば、そうした国々の人々が天然資源を開発し、生活を向上させる平和的機会を得られる様になる事を、我々は願っている。これらは皮相的な展望でもない。これらの背景には、戦争によってではなく、無償譲渡や平和的交渉によって最近独立を勝ち取った国々の存在がある。また、西側の人々が、貧しい人々や飢饉・旱魃・天災の一時的な被害を受けた人々に対し積極的な援助を行なった事も既に報告されている。そしてこれらの活動は、平和を意図した約束や主張よりも強く訴えるものである。しかしながら私は、いつまでも過去の提案を繰り返したり、過去の行いを再び説明したりしたくない。平和に至る達成方法を、それらがいかに実現不可能に思えようとも、全て試していかなければならない。こうした新たな平和への道筋で、これまで十分には試されていないものが少なくとも1 つ存在している。 それは、現在国連総会で提示されている道筋である。西暦1,953年11月18日に、国連総会は決議で「軍縮委員会は、主要関係大国の代表によって構成され、受け入れ可能な解決策を個別に模索する小委員会の設置の妥当性を検討し、そうした解決策を総会及び安全保障理事会に、西暦1,954 年9 月1日迄に報告するものとする」という提案を行なった。アメリカは、国連総会の提案に留意し、世界の平和のみならず、世界の存在自体にも影を落とす核軍備競争に対する「受け入れ可能な解決策」を模索するために、「主要関係国」とされる諸国と早急に個別会合を行う用意がある。我々は、そうした個別の外交交渉に、新たな構想を持ち込む所存である。アメリカは、軍事目的の核物質の単なる削減や廃絶以上のものを求めていく。核兵器を兵士達の手から取り上げる事だけでは十分とは言えない。そうした兵器は、核の軍事用の包装を剥ぎ取り、平和の為に利用する術を知る人々に託さなければならない。アメリカは、核による軍備増強という恐るべき流れを全く逆の方向に向かわせる事が出来るならば、この最も破壊的な力が、全ての人類に恩恵を齎す事になり得る事を認識している。アメリカは、核エネルギーの平和利用は、実現出来ると考えている。その可能性はすでに立証されている。世界中の科学者及び技術者の全てがそのアイデアを試し、開発する為に必要となる十分な量の核分裂物質を手にすれば、その可能性が、世界で効率的且つ経済的なものへと急速に形を変えていくことを、誰一人疑うことは出来ない。原子力の脅威が、人々の、そして東西の国々の政府の脳裏から消え始める日を早く齎す為に、現時点で講ずる事の出来る措置が幾つかある。そこで私は以下の提案を行う。
①主要関係国政府は、慎重な考慮に基づき、許容される範囲内で、標準ウランならびに核分裂物質の各国の備蓄から国際的な原子力機関に対して、それぞれ供出を行い、今後も供出を継続する。そうした国際機関は、国連の支援の下で設立される事が望ましい。
②そうした供出の割合、手続き及びその他の詳細については、先に言及した「個別交渉」の中で適正に定めるものとする。アメリカはそれを誠意を持って行う用意がある。アメリカのパートナーとなる国で、同様の誠意ある行動を取る国は何れもアメリカが、理不尽な相手国ではない事を理解する事になる。この計画に従った最初の、そしてそれに続く初期の供出は、当然ながら量的には少ないものとなる。
しかしながらこの提案は、完全に受け入れ可能な世界的査察・管理体制を構築するという、相互の不信感を招きやすい試みを行わずに実施し得るという大きな長所を持っている。国際原子力機関には、供出された核分裂物質ならびに他の物質の保管・貯蔵・防護を行う責務を持たせる事も出来る。そして科学者たちが知恵を絞り、そうして蓄えた核分裂物質が、何者かによって不意打ちで強奪される事が基本的に不可能となるよう特別の安全体制を講ずる。さらにこの原子力機関のより重要な責務は、そうした核分裂物質が人類の平和の希求に資する目的で使われる方法を工夫する事になるだろう。例えば、核エネルギーを農業や医療や、その他の平和的活動のニーズの為に応用する事を目的として、専門家達を動員する事になる。また、世界の電力が不足している地域で、あり余る電力を提供することもその特別な目的となる。そうした体制によって、核物質を供出する国は、人類の脅威ではなく、そのニーズに貢献する事で国力の一部を捧げる事になる。アメリカは、他の主要関係国と共に、核エネルギーのこうした平和利用を促進する計画策定に着手する事は、何よりも喜ばしい限りであり、また誇らしく思うものである。こうした主要関係国には、当然ソ連も含まなければならない。私は以下の計画をアメリカ連邦議会に提出する用意があり、これらはそこで承認されると強く期待している。
①核分裂物資の平時における最も有効な利用法に関する世界的調査を促進するとともに、その目的の為に妥当である全ての実験の実施に必要な材料が全て確実に準備出来る様にする。
②世界の核備蓄の潜在的な破壊力の削減に着手する。
③この文明が開化した時代に、東西両方の陣営の世界の列強が、戦争のための軍備増強よりも人類の向上心に関心がある事を全ての国のあらゆる人々が認識できるようにする。
④世界が恐怖による無気力から脱し、平和へと積極的に進展を遂げられるように、平和的対話の新たな道筋を開き、官民両方の話し合いによって解決しなければならない多くの困難な問題に対し、新たな準備に取り掛かる。原爆投下という暗い背景を持つアメリカとしては、力を誇示する事のみを望むのではなく、平和への願望と期待をも示したいと望んでいる。 来たるべき数カ月間は、重大な決断を多々伴うだろう。それらの決断は、この総会で、世界各国の首都や軍司令部で、統治者であれ統治される側であれ、凡ゆる場所の人々の心の中で、こうした活動を脅威から脱出させ平和へと主導する決断となってほしいと願う。そうした極めて重大な決断を下すに当たりアメリカは、恐ろしい原子力のジレンマを解決し、この奇跡の様な人類の発明を、人類滅亡の為ではなく、人類の生命の為に捧げる道を、全身全霊を注いで探し出す決意を、皆さんの前でという事は世界の前で誓うものである。本日私をここにお招きいただき、非常に丁重にこの演説に耳を傾けて頂いた事に対し、代表団の皆さんに再び感謝したい。

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